大阪地方裁判所 昭和31年(行)83号 判決 1958年8月20日
原告 小林実
被告 国 外一名
訴訟代理人 今井文雄 外四名
主文
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は、「被告国との間で、別紙目録記載の土地が原告の所有であることを確認する。被告大阪府知事との間で、同被告が右土地についてなした買収処分が無効であることを確認する。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、「別紙目録記載の土地は、原告の所有であるところ、大阪府中河内郡矢田村農地委員会は、右土地を自作農創設特別措置法(自創法)第三条第一項に該当する農地として、同法に基き昭和二二年一〇月二日を買収の時期とする買収計画を定め、被告府知事は右買収計画に基き買収処分をした上、これを笠原駒吉に売り渡した。
しかし本件土地は、自創法第五条第五号にいう「近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地」であるから、矢田村農地委員会または大阪府農地委員会において、買収除外の指定をすべきものであるのに、右指定をしないでなされた本件買収計画は違法であり、当然無効である。すなわち、本件土地はもと大阪府中河内郡矢田村に属していたが、戦前から、大阪市内の阿倍野斎場をこの地に移転する目的で、矢田村を大阪市へ編入する計画がなされ、その具体化として都市計画が施行された。右計画によると、本件土地の付近一帯を瓜破霊園と称する緑地帯とし、住宅地にしようとするものであつた。そこで昭和一〇年頃以来再三にわたつて、阿倍野斎場によつて生活を営む業者その他一般人等から原告に対し、本件土地を、住宅地として利用する目的で坪当り金三〇円の代金で買い受けたい旨、その売却方を申し込んで来た状態であり、原告としても、将来はこれを宅地として利用する考えであつた。ところが、戦争のため矢田村の大阪市への編入がおくれているうちに、本件買収計画が樹立されたのであるが、当時すでに、右のとおり、本件土地の付近一帯の農地はこれを耕作以外の目的に使用することが予定されていたのである。そして、昭和二九年頃になつてやつと右大阪市への編入が実現し、現在、予定のとおり、阿倍野斎場を本件土地の付近に移転させるため、著々その手続が進められ、瓜破霊園が実現した場合、本件土地はその表門通りに面する位置にあり、付近一帯の土地は、前記業者等がこれを宅地に使用する目的で競つて買い受けようとしており、その時価が極端に暴騰し、俗にいう「墓地ブーム」の観を呈している。このように、本件土地は、買収計画当時、これを農耕地として利用するよりも宅地として利用する方が国家社会に対し稗益するところが甚大であることが客観的に認められ、「近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地」であつたことが明らかである。
従つて、この点を看過してなされた本件買収計画は違法であり無効であるから、これに基く被告府知事の本件買収処分も無効であり、さらに、これに続いて行われた売渡処分もまた無効である従つて、本件土地はいぜん原告の所有である。そこで、被告国との間で、本件土地が原告の所有であることの確認と、被告府知事との間で、本件買収処分が無効であることの確認を求める。」と述べた。
被告両名は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、
「原告主張の事実中、原告所有の本件土地をその主張のとおり、買収、売渡をしたことは認めるが、本件土地は近い将来非農地化を必要とするものではないから、これに対する本件買収計画、買収処分は適法であり、何らのかしはない。」と述べた。
理由
原告は、本件土地は、自創法第五条第五号により「近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地」として、買収除外の指定を受くべきものであるのに、これが指定をしないで、買収計画、買収処分をするのは違法であり、かかる買収計画、買収処分は無効である、旨の主張をする。自創法第五条第五号にいう「近く土地便用の目的を変更することを相当とする農地」は、市町村農地委員会または都道府県農地委員会において、買収から除外する指定をすべきものであり、これをしないで買収することはもとより違法である。しかし当該処分が、単に違法であるにとどまらず、当然無効であるというためには、右かしが重大かつ明白な場合に限るのであつて、当該農地の具有する非農地への高度の転移性が、買収当時において、買収処分を行うことと絶対に相容れない程度に、特段顕著に認められる場合、たとえば、当該農地が市街地に孤立する小農地であつて、その四囲に住宅や商店が密集し極めて近い時期に宅地に転化せざるを得ない必然的状勢にあり、従つて、農地の所有者からその所有権を奪つてこれを耕作者に与えることに、ほとんど何らの意義も価値も認めることができないような場合のほかは、買収処分を無効ならしめるかしには当らないものと解するのが相当である。原告主張の事実があるだけでは買収当時、本件土につき、非農地への高度の転移性が右の程度に特段顕著に存するものとはいえないから、本件買収計画買収処分を当然無効であるとはいえない。
そうすると、本件買収計画を無効であるとし、本件買収処分が無効であること、従つて本件土地が原告の所有であること、の確認を求める原告の本訴請求は、その主張自体理由のないことが明らかであるから、いずれもこれを棄却することとし、民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 平峯隆 松田延雄 高橋欣一)
目録<省略>